2014年5月7日水曜日

渡辺淳一さん、死去

作家の渡辺淳一さんが亡くなられたとの報道が昨日なされました。80歳、前立腺がんが死因とのことです。ご冥福をお祈りいたします。私は学生のころに渡辺さんの作品を良く読みました。渡辺さんの作品というと映画やテレビドラマになって社会現象と言われるほどになった「失楽園」のように男女の機微を描いているものがよく知られています。大人の恋を描いている作品は渡辺さんの代表作の一つと言えますし、よく京都が小説の舞台になっていましたので近親感がありました(私は京都府出身で、予備校時代京都市内に住んでいました)。しかしながら、私にとっては医学を身近に感じることが渡辺さんの初期の作品に多くありました。私の学生時代には、医学部に入ったといっても医学部の授業は臨床現場から離れたものが多く、臨場感がないため、ややもすると退屈な一面がありました(当時の教授の先生方、申し訳ありません)。渡辺さんの作品で最初に読んだのは「光と影」だったように記憶していますが、カルテの順番が異なったことで2人の人生が大きく変わることを描写された小説にその当時戦慄を覚えました。渡辺さんは札幌医科大学で整形外科の講師になられており、まさに臨床医であったわけで、母校で行われた日本初の心臓移植を話題にされた「小説心臓移植」、また「無影灯」や「阿寒に果つ」などや、渡辺さんの自叙伝とも言うべき「白夜」で北海道の過疎地で新米の医師としてこわごわと手術をおこないながら成長してゆく様子をリアルに書かれた小説を読んで、自分もこうなるのだろうか、とドキドキしながら読んだことを憶えています。医師というのは厄介な職業でどうしても医学の事が気になるところがあります。もちろん、それほどヒトの体は不思議に満ちて簡単にはわからない事が多いのです。そんな日常でも、ふと医師になろうとしていたころの純粋な気持ちを思い出す事は大切な瞬間であると考えます。若かりし頃の自己と向き合うためにも渡辺作品をもう一度読み返してみたいと思います。